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本物の技術力とは

2007年1月13日 土曜日

タイトルが技術力、カテゴリが小説・ゲーム・アニメ系ということで、鋭い方は何を言いたいのかがすぐ分かるであろう。

もちろん、任天堂「Wii」対Sony「PlayStation3」である。

世間では、任天堂がコンセプト、Sonyが技術力で売ったという見方が大半ではあるが、これはとんでもない誤解であると言わざるを得ない。
結論から言おう。Wiiに搭載されている技術力は、PS3のそれより圧倒的に上である。

PS3の技術力は誰もが認めるところである。高い情報処理能力は確かに誰もが認める「すごさ」であろう。もちろん、短期間の開発でBlu-Rayディスクドライブを搭載したというのも高く評価する。
しかし、所詮はPlayStationと同じ「CD-ROM媒体のゲーム機」なのである。ローディング時間が圧倒的に改善されたり、操作方法がPlayStationに比べて劇的に楽しくなったという話は聞かない。PS2ソフトの互換性についても、不安という話しか聞こえてこない。内部に搭載しているディスクもハードディスクドライブであることから、Sonyタイマーはいまだ健全であるとの見方もできる。

ひるがえって、任天堂のWii。
まず特筆すべきはそのリモコンである。有名なゲーム機としては初代ファミコン以来の、アナログセンサを搭載した機種である。技術者でなければ分かりにくい部分ではあるのだが、アナログセンサを実用できるレベルの使いやすさにするためには、電気回路やプログラムを用いて、センサの誤差を物理レベルから論理レベルまでがちがちに固めてやる必要があるところに、センサ反応の大きな遅れは許されない。
ゲームに搭載するとのことで感度はだいぶ甘く作ってあるのだろうが、多数の人間が扱うことを考えると、人間系の誤差もセンサ系統がある程度吸収してやらなければならない(逆に、ゲームなので誤差吸収が「ある程度」で済むのは救い。介護ロボットとか、災害救助ロボットとかはこのへんの処理が致命的)。
結論を言えば、外界と計算機のインタフェースで一番難しいのは、アナログセンサである。このため、アナログセンサを売りとできるだけの技術力を備えた任天堂の開発陣には頭が下がる。

つづいて、内部のお話。
私もITProを見て知ったのだが、中身にシリコンディスクドライブが搭載されているとのこと。
このディスクもやっぱり生ものディスクではあるのだが、CDやHDDに比べて「読み込みが圧倒的に早い」という特徴がある(シリコンディスクをCドライブにした最新機種で、WinXPの起動速度が4秒という実験結果もある)。どう使うかというと、CDデータのキャッシュである。ITProの記事では、起動速度が圧倒的に速くなったとはっきり書かれていることから、これも技術的な判断が優れていた証拠としてあげて良い。
あと、リモコンが地味にBluetooth対応ということで、信頼性を挙げる無線ネットワーク技術がこっそり採用されているのも好判断。

最後に、本体とソフトウェアの価格である。
最新テクノロジを突っ込んだ3種類の機種の中で、唯一3万円を切っているのがWiiである。本体価格を下げてソフトで利益をとりに行く……はずが、「はじめてのWii」はBluetooth対応の入力デバイスつきで5000円を切っている低価格。話題に上がっているWii Sportsも同じ価格帯。ハードを捨て駒にするには、ソフトの値段が安すぎる。
ITProによれば、本体内部基板の部品がすかすかとのことで、ハードでのコストダウンがかなり進んでいる模様。また、発売予定ソフトの本数もそれなりにあることから、価格帯もあわせて考えると、開発環境もそれなりに整っていると推測される。

Wiiが製品コンセプトで勝利したというのはすでに言い尽くされていると思うので、Wiiの技術的な側面に焦点をあてて考えてみた。PS3の技術には全く感銘を受けなかったが、Wiiの技術に大きな感銘を受けた一人の技術者として、Wiiが技術を捨てたという世間の評判は許せなかった。
何も、画像が綺麗とか音声がすごいとか、そういうのばかりが技術じゃない。快適・完全・低コストを求めるのも、大切な技術。
この点においては、PS3は「技術的に」Wiiに遠く及ばないと断言しても良いと感じた、昼下がりの与太話。

追伸
今回の記事を書くにあたって、だいぶ前に会社で(ぉぃ)読んだ、以下の記事が非常に参考になっている。
【特別インタビュー】
「失ったものを取り戻したい」—任天堂岩田社長が「Wii」に込めた想い
(ITPro)
ファミコンという時代を作ったからこそできた、技術と一体になった経営判断に乾杯。