伊達直太+人生戦略会議「まずはフツーをきわめなさい」(WAVE出版,2009)を読了。
「28歳からのリアル」シリーズということで、とりあえず手に取ってみた。
まとめ:
ジェネラリスト啓蒙書。ぶっちゃけ、読むだけ時間の損。
概要:
「フツー」じゃないと、この世の中は渡っていけないということを、データを使ってこんこんと説く書。
「普通」じゃなくて「フツー」と書いてあるのがポイントで、「フツー」という言葉に、高いレベルでの常識力を持ち、しっかり考えて生きろという意味が込められている。
所感:
この本を手に取った時点で、あなたはこの本の内容は理解しきっている。
自分の常識力を再確認するには悪くない本だが、逆に再確認以上の説得力を持たない。
常識の根拠をデータすなわち常識に頼っている時点で、論理が破綻(ループ)しているのが大問題。常識を示す、すなわち常識にいたる根拠を組み立てるための論理立てがおかしいことに気がつけるか。
「フツーをきわめる」ことの重要性も、「フツーを極めないとこんなにひどいですよ」ということが示されているだけであり、逆に「フツーを極めることでこんなに幸せになれますよ」という視点はほとんどないに等しい。
とりあえず、作者たちには「まずは書き物のフツーをきわめなさい」と言いたい。定義と公理系からスタートして論理からなるストーリーで結論を導くいう、書き物として当たり前の筋道がブレるだけで説得力が消えてしまう。
内容としては、公私に渡って広く解説されている分だけ浅く感じる。
仕事の話だと、よく言われる、「T字型」「π字型」(=常識(横棒)と、専門(縦棒)が1〜2個)の啓蒙書というなら話はわかるが、専門を軽く見ているのが気がかり。専門を重く見る現代の風潮に対するアンチテーゼ、というのは分かるが、専門のない人間なんて、それこそ代わりはいくらでもいる。
生活と家庭の話はしごく真っ当だが、それゆえ、あたりまえのことばかりでおもしろくない。まわりに合わせて思考停止するなという指摘は妥当であるものの、それを「常識のゆがみ」という視点でとらえるのはピントがおかしい。
作者がファイナンシャルプランナーということで、保険と家計の話がおもしろかったのは収穫だった。しかし、これを読むのに1400円は高い。ネット記事(日経ビジネスオンラインとか、ダイヤモンドオンラインとか)なら無料であるw
オタク/専門バカの危険性を語るのではなく、フツーを極めた先にあるはずの、オタクを極めるより素晴らしい「フツーな何か」を語って欲しい、と感じる次第。
「フツー」を強く勧める本書からは、「フツー」のよさがまったく感じ取れない。この論調では、「リスクをとってオタクを楽しむ」覚悟ひとつで、フツーのよさが全部吹き飛んでしまうではないか。
おまけ:
今、専門家がもてはやされている「風潮」を切って捨てる前に、「なぜその風潮なのか」「その風潮がなぜ誤っているのか」の本質をとらえた説明が必要。参考まで、私の持っている答えは「プロジェクト・マネジメント」。欲しいのは常識と専門の「両方」に通じた人間(T字/π字型人間)である、ことに注意する。
専門なんて会社で簡単に育てられる? ほぅ。。。