お前の音速は遅いな

タイトルは霧雨魔理沙@東方シリーズより。

 音速というのは、音を運ぶ媒体(キャリア)によって大きく変化する。空気中では秒速340メートルそこらのスピードが、水の中では秒速1500メートルにまで上がる(数字はうろ覚え)、金属などになるとこの速度はさらに上がる。
 また、音速を基準とした速度の単位に、「マッハ」というものがある。この単位は、音速を基準としているがゆえ、航行速度などを計算するにはあまり使いやすい単位ではない(音速はキャリアの温度によっても変わるため)。しかし、「音速の壁」「衝撃波」といったものに関する研究を行う際には、これほど使いやすい単位もなかろう。
 すなわち、音速というものはキャリアによって大きな差が出てくるため、上記のように「音速」と言っても、早いものから遅いものまであるということは、単位のもつ問題として意識しておく必要があろう。数百年昔には、長さの単位が人間依存であったことも同じである。

 科学技術の最先端について、大学院生として現場の研究者を体験した立場からも、最先端というものがいかに「遅れている」かというものが分かる。
 理由は簡単で、新しいものを発案し、発表した後、最先端の技術として確立するまでの間に、次の技術のアイディアが芽生えてしまうからである。
 そんな世界にいると、最先端=5年遅い、という錯覚にとらわれてしまう。最先端の何年も、あるいは何十年も先を行っている研究室など、掃いて捨てるほどあるからだ(これこそが大学の研究室の存在意義であり、目先の研究・技術開発などは企業の研究室に任せておけばよい)。

 などと、与太話から、本題に入っていく。
 キャリア、ということで、Poloさんの日記から、番号ポータビリティ制についての記事があったので、感想を述べてみる。
 ユーザーの視点としては当然の感想ではあるものの、技術者あるいは経営者の視点から見ると、ひどく残酷で難しい要求であるとも感じる。
 キャリア変更に対して、各種サービスに関しては捨てるのが当然(逆に言えば、キャリア変更をさせないために捨てたくない各種サービスをつける)なので、ここではポータビリティ後のキャリア変更で致命的になりうる唯一の項目、メールアドレス一点に絞って議論をしたいと思う。電話帳はキャリアが変わってもケータイショップにお願いすれば移行できるし、着メロやメールの過去ログなんかは白ROMになった旧いケータイを残しておけばよい。

 番号ポータビリティ制度が望まれていたのは、携帯メールが普及する遙か以前のことからである。このころ、メールアドレスについてはキャリア間通信が確立していないこともあって、それほど気にしている声も聞かなかった。当時の私の情報収集能力は低かったが、今考えても当時にメールアドレスの移行を促す理由はない。
 さて、一社で行うならともかく、複数の巨大企業を相手にして、その利害を調整しながら新しい共通規格を探っていくのは、非常に難しいことである(みずほ銀行の統合失敗は記憶に新しい)。
 この状況下で、何年もかけて調整に継ぐ調整、意見交換に継ぐ意見交換を重ねて、やっと告知が出来たと思ったら、世の中はすでにケータイメール時代。
 また、現在ケータイで使っているメールプロトコルは、各社ばらばらで、SMTPですらないという。これを統合していくとなると、また基準の規格がうんぬん、調整のための規格がうんぬん、と始まることになる。また、サーバー・DNSの問題までからむと、利害関係はとんでもなく複雑になろう。
 逆転の発想をして、元のケータイアドレスから先のケータイアドレスへ無料転送するサービスを考えてみても、会社間のサービス調整に問題が出てくる(特に絵文字とか。なんであんな面倒なもの発明するんだよorz)。もちろん、他のキャリアに逃げたユーザを安い値段でフォローしなきゃいけないキャリアの側にだって不満は募る、今はSPAMメール対策にアドレスを変更する時代なのだから。
 こうして考えてみると、企業の論理からはメールアドレス移行が非常に難しいと考えられる。この壁を乗り越えてまた調整する、と考えても先は長い。

 企業の大きな利益・損益のからんだ規格や法律作りは、ユーザーの利用形態の変化に比べて、どうしても遅くなってしまうことは否めない。拘束力のないW3Cですら、統一された規格の勧告を行うには数年の実践を要する。
 とりあえず、最初の一歩として、番号ポータビリティという一つのサービスが実現できたことを正直に喜びたい。そして、上記「メアドポータビリティ」の難題に挑むべく、通産省と各キャリアの方々には、再度奮闘していただければ幸いかと思う。

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