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elder-alliance.org  >  奇跡のかけら  >  KanonTCGSS  >  その51

この話は、Key・VisualArts「Kanon」、ティーアイ東京「Air&KanonTCG」から取材しました。 関係する会社名・商品名および一部の人名に限り実在しますが、その他全てフィクションです。 以上をふまえた上で、お楽しみいただける方は、この話をお楽しみ下さい。

第51話~慈しみの心~

「残念だったわね、奇跡の使い手は真琴さまに届かない」

「残念だったわね、沢渡真琴の守護者はもう誰もいない」

佐祐理(香里)と、ガードの1人が同時に言葉を発する。

「あら、もう1人の守護者はもういないわよ」

「いえ、私があなたを片づければいいだけの話よ」

「あなたごときに、私が負けると思って?」

挑発の投げ合い。お互いに、確実に勝利すると思っている。

デュエルディスク空間のシステムが、コインを投げる。

先手は、佐祐理の姿をした香里。

手早くカードをドロー、そしてセットすると、

「フリフリ名雪『ティータイム』」

と、相手のいっさいの行動を封じる。

「……」

相手の表情に、驚愕とあきらめの色が浮かぶ。

それからの佐祐理(香里)の動きは、本来の佐祐理と同じようにスムーズで。

相手にターンを明け渡すことなく、バトルフェイズに入ることなく、勝利ポイントを一つずつ重ねる。

そして、ものの数分で、7点の勝利ポイントを得ることができた。

「先手必勝、これがKanonの現実よ」

ガードの1人は、自分が動くはずだった手順を1ターン先に使われ、5割の確率で訪れる、何を意味するかも知られていない敗北を喫した。

「……人間が、間に合ってしまったか……」

「今日は特別運が良いだけですよ」

香里(たくみ)と、ガードのもう1人は淡々と会話する。

ガードは、すでにデッキの準備を終えている。

しかし、香里(たくみ)はまだ、デッキのシャッフルを行っている。

リフルシャッフル、カット、もう一度リフルシャッフル。

そこから、デッキを一枚ずつ8つの場に時計回りに配り、順番に重ねて回収する。

さらに、リフルシャッフル、カット、リフルシャッフル。

そこから、デッキをこんどは7つの場に時計回りに配り、順番に重ねて回収する。

しかも、一つ一つの動作が丁寧すぎて、スピードがきわめて遅い。

長い時間にわたりシャッフルしたデッキを、こんどはガードに渡す。

「カットをさせていただきたいです」

そして、ガードからデッキを受け取ると、同じように、丁寧なシャッフルを行う。

そして、デュエルが始まる。

ガードが先手をとり、着物佳乃のデッキを回し始める。

しかし、ガードは『ティータイム』はおろか、いっさいのカウンターを手にしていないことが、手札の枚数から分かる。

香里(たくみ)は、丁寧に「残念賞進呈」で着物佳乃を1枚落とすと、 その場で引いた「色仕掛け」で、1枚制限カードであるYシャツ美凪を勝利ポイント置き場へと送り込む。

香里(たくみ)の手元には、カウンターカードはない。 しかし、ガードが場を修復する(すなわち、着物佳乃を2枚引き、 勝利ポイント置き場に置かれているYシャツ美凪を「ヌリッタ」なしで捨て札置き場にたたき落とし、 さらに栞の常備薬セットを用いてフィールドに呼び戻す!)ことは、原理上は可能である。

「勝負ありましたね」

「いいえ」

ガードの降参の宣言を、香里(たくみ)は受け付けなかった。

理由は簡単である。降参の宣言は、本来KanonTCGでは規定されていない。 すなわち、勝負を下りることで、敗北者は即座に、安全にデュエルディスク空間を抜けることができる。 実際、デュエルディスク空間を用いた練習では、必ずどちらかが降参して勝負を終えていた。

が、香里(たくみ)の目的は、勝利することではなく、一秒でも長く、ガードを空間に縛り付けておくことなのだ。 もちろん、降参が定義されていないのだから、降参の宣言をはねつけることも可能である。

「きっちり、デッキアウトで勝ち切らせていただきますね」

香里(たくみ)は、もっとも長い時間、勝負が決しないやり方を宣言する。それを行うことで、100%確実に時間を稼ぐことができるためである。

ガードは、降参をすることも、即座にデュエルディスク空間で敗北し、清水の舞台に飛び込むことも、許されなかった。

パチッ。

静電気により帯電した状態で金属に触れた感覚が、あゆ(美汐)の指に伝わる。

パチパチッ。

同じような痛みが、感覚を徐々に短くして、断続的に襲いかかる。

しかし、そんなことは、両者にとって問題ではなかった。

目の前の怯えた女性を、憐れみと優しさのこもった目で見る女の子。

そんな倒錯的な構図を保ったまま、2人の距離は徐々に狭まる。

……近寄るな。

あゆ(美汐)が真琴に近づくたび、静電気のようなエネルギーのはじける数は、反比例的に増えていく。

大丈夫だから、怖がらないで。

反比例的に増えるエネルギーの破裂は、指数的にあゆ(美汐)の体をむしばむ。

近寄るな。

安心して、何もしないから。

出ていけ。

怖がらないで、こっちへいらっしゃい。

長い時間をかけたやりとりの後に、あゆ(美汐)は真琴を抱きしめる。

すなわち、ゼロ距離。

反比例のグラフが発散し、指数関数が、通常より圧倒的に速く無限大に発散する。

あゆ(美汐)へのダメージは、この一瞬、生命が耐えうる限界を、圧倒的に凌駕する。

そのとき、あゆの体から、まばゆい光があふれる!

怖い。

大丈夫、私がそばにいるから。

佐祐理(香里)が実空間への帰還を果たしたとき、目の前のまぶしく光る球体から発せられたのであろう、 エネルギーの粒子であり波動である何かが、体中を突き抜けていく感覚を覚えた。

その感覚が消えると、光は消え去り、そこには直立する沢渡真琴と、それを抱きしめるあゆ(美汐)がいた。

「いったい、何が起こったと言うの?」

沢渡真琴から感じていたプレッシャーが、今は完全に消えている。

そして、沢渡真琴は膝をつき、あゆ(美汐)がその頭を抱きかかえる格好になった。

すすり泣く声。やさしい言葉。

目の前にいる、月宮あゆという肉体と天野美汐という名前を持ったマリア様。

信じられない光景に頭をふるわせながらも、佐祐理(香里)は戦いが終わったことを、確信した。

つづく。

あとがき

解決編前半。後半で一気に時間軸を整理します。

そして、物語は、エンディングに向かって一気に収束します。

途中、「反比例的」あるいは「指数的」という、数学的な装飾語が出てきましたが、この表現は無限大に飛んでいく速さを規定しています。 どれくらい速い速度なのかを体感したければ、グラフ用紙とWindows電卓(関数電卓モード)を用意して、高校の数学Ⅱの教科書を見ながら、

lim (x→+0)e^(1/x)

を計算してみましょう。(^は累乗の意味。たとえば2^3=8。また、e≒2.7ですが、2としても十分体感できます)

やりかたは簡単(ですが、時間がかかります)。xを10,9.9,9.8,……と減らしていって、少しずつ0に近づけていきます。

で、横軸がx、縦軸がe^(1/x)の点を書いていきます。

0.1になったら、次のグラフ用紙へ。

0.1,0.099,0.098,……と、横軸のxの数字を、前のグラフ用紙より細かく取ります。

同じようにグラフを書いてみましょう。

xが0に近づくことで、縦軸にが急速に∞へ近づいたことが分かります。

実際、xが0.01になるころには、10の43乗より大きな数字になります。

これだけのダメージを受け止めて、なお正気を保っている彼女は、文字通り神の使いと言っても過言ではないでしょう。

ではでは、次回をお楽しみに~。