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elder-alliance.org  >  奇跡のかけら  >  KanonTCGSS  >  その23

*この話は、Key・VisualArts「Kanon」およびティーアイ東京「Air&KanonTCG」から取材しました。 関係する会社名・商品名に限り実在しますが、その他全てフィクションです。 以上をふまえた上で、この話をお楽しみ下さい。

第23話~星への願い~

深夜。だだっ広い家には、2人の女性。

「名雪……?」

「香里……う、うぅ……香里ぃ~」

突然泣き出す名雪。その頭を、香里が抱きかかえる。

「はぁ……とりあえず、気が済むまで泣きなさい。事情は後で聞くわ」

「うん……香里、ありがと……」

泣きながら返事をする名雪。香里は、言葉を返す代わりに、名雪の頭をなでる。

しばらくそうしていただろうか。

時計は深夜をさし、あたりの静けさもより強調される。

……なぜか、床暖房が強くなってきた気はするが、気のせいに違いない。

長いこと泣き続けていた名雪がようやく泣きやんだ頃、祐一と栞が水瀬家の玄関口から家に入ってくる。

「……やっと来たわね」

「どうしたんだよ、香里。こんな夜中に呼びつけて」

「その件について、名雪から説明があるわ。さあ、名雪」

「うん……あのね、お母さんが、お母さんが、交通事故にあったの……」

「秋子さんが?まさか」

「私が……私が、左右を注意しなかったから……車が来て、お母さんが私に体当たりして、それで……」

そこまでいうと、名雪はまた泣き出した。

栞に、軽く謝る合図をして、今度は祐一が名雪に胸を貸す。

「……で、香里。秋子さんは?」

「雪国大学総合病院だと思うわ。名雪が眠ったら、行ってみるつもりだけど」

「じゃあ、俺もそうするわ。栞は?」

「……祐一さんとお姉ちゃん、何もないですよね」

疑いの目を、祐一と香里に向ける栞。

「こんな状況で、そんなこと言ってられないと思うけど」

香里の視線が冷たい。

「分かりました。それじゃあ、私は待ってます」

名雪を見てから、栞は答える。さすがに名雪1人を残しておくのはまずいだろう。

「栞、頼むわ」

「じゃあ、栞。俺の部屋、勝手に使ってくれ。名雪の部屋はその隣だから」

「分かりました。行ってらっしゃい」

こうして、栞と名雪を残し、祐一と香里は病院へ向かった。

「水瀬秋子さんの、親族の方ですね?」

雪国大学総合病院に着き、祐一と香里は、看護婦に手術室の前まで案内される。

「水瀬秋子さんの容態ですが……もう1人の親族の方からは聞いてませんか?」

「名雪なら、今は家で休んでます。精神的なダメージが大きくて……」

「そうですか。家に、お父さんでも残っていらっしゃるのかしら?」

「いえ、かなり昔に、交通事故で亡くなってます」

「あら、ごめんなさいね。……では、容態の説明に移らせていただきます」

そう前置きして、看護婦は秋子の容態について話し始める。

それによると、現在、秋子は緊急手術中で、それが成功したとしても、体力に危険があり、ここ2~3日が山だろう、と言うことだった。

「奇跡でも起こらない限り、助かる見込みはないと思ってください」

看護婦は、そう宣言する。

「そうですか……」

祐一も香里も、とたんに暗くなる。

不意に、「手術中」のランプが消える。

そこから転がされたベッドの上には、包帯で全身をぐるぐる巻きにされ、点滴の管に囲まれた、秋子の見るも無惨な姿があった。

思わず、絶句し、立ちつくしてしまう。

そして、ベッドが通り過ぎた後。

「……おわかりになられましたか?」

「ええ、とてもよく……」

そう答える2人の目からは、生気が抜けていた。

水瀬家に戻る。

「あの結果を、名雪に聞かせるわけにはいかないわね……」

「ああ。でも……医者か看護婦がしゃべっていたら?」

「……」

言葉少なく、2階の個室にあがる。

名雪の部屋から、寝息が聞こえる。長旅の後にあれだけ泣けば、疲れるのも当然。

その場は放っておいて、祐一の部屋に足を運ぶ。

祐一の部屋では、栞が気持ちよさそうに眠っていた。

その顔を見た祐一は、不意に何かを思いだしたかのように、かすかに震え始めた。

祐一の気配を感じ取った香里がいう。

「相沢君、私たち、家に戻るわ……」

「いいよ、二人でここで寝ててくれ」

「そうしたら、相沢君は……?」

「空き部屋を使うさ」

「なら、遠慮なく借りるわ……」

香里を自分の部屋に送ると、祐一は、泊まり客用の個室に入る。小さい頃は、この部屋に泊まっていた記憶がある。

「この辺に布団が……あった」

乱雑に布団を敷く。放り投げる、という表現のほうが近いか。

そして、その布団に倒れ込む。

「今日は、なんて日だよ……!」

眠くもないのに無理矢理目をつぶり、寝ようとする。

しかし、先程思い出した台詞は、なかなか頭から離れない。

『奇跡は、起きないから奇跡っていうんです』

栞が、昔口癖のようにくり返していた台詞。

『奇跡でも起こらない限り、助かる見込みはないと思ってください』

看護婦の宣言が、昔の台詞とシンクロして、祐一の感情を逆撫でする。

どすっ!

……祐一の拳が、布団に直撃する音。

どすっ!……どすっ!……

結局、明け方までこの音が途切れることはなかった……

もう、昼頃になるか。

明け方眠りについた祐一が起床したのは、お天道様が真上に来る時間だった。

「……もう朝かよ……」

悪態をつき、祐一は自分の部屋に向かう。

その部屋から声が聞こえる。

「……でね、祐一さん、『デッキ的再会』なんて言うの!ひどいと思わない?」

「そうね。でも、相沢君らしいわ」

そうだ……奇跡じゃなくて、デッキ……

秋子さんは、助かるんだ……!

姉妹の会話を聞いた祐一の顔が、明るさを取り戻した。

「……あら?相沢君?」

部屋の扉を開けた香里と祐一が鉢合わせになる。

「よお、香里。調子はどうよ?」

「ええ、おかげさまで。……栞には、本当のことは話してないからね……」

「OK!ひぁうぃーごー!」

「相沢君、いつにもましてテンション高いわよ……」

「さんきゅ!」

「のーむさんのことは、どうしたのよ……?」

「奇跡じゃなくて、デッキだからNoProblem!」

そう言って、祐一はその異様なハイテンションを保ったまま階段を下っていく。

「奇跡じゃなくて、デッキ……?どういうことよ……」

後に残された香里は、彼の様子を呆然と見つめるしかなかった。

昼食。

祐一にとっては朝食だが、お日様が真上にある以上、昼食である。

そして、美坂姉妹にとってもこれが今日初めての食事である。

「じゃ、食べよか」

「悪いわね、相沢君。準備までしてもらっちゃって」

「まあ、2人分作るのと4人分作るのは、あんまし大差ないからな」

「おねえちゃん、祐一さんの料理、おいしいですよ~」

……しかし、その食卓に、1人だけ参加しない者がいた。

水瀬名雪。

まだ、自分の部屋に引きこもっているらしい。

「……ったく、あいつは何してるんだ……」

「食事、持っていこうか?」

「いや、あとで俺が持ってくよ」

とりあえず、名雪抜きでの食事が終わる。

「……じゃあ、俺は簡単に後かたづけするから、2人は戻って休んでてくれ」

「お言葉に甘えさせてもらうわ」

「ところで……今夜も泊まるのか?」

「そうね……のーむさんに留守を頼むって言われたし、名雪も気になるし、そうさせてもらうわ」

「わかった……」

香里は、2階へ引き上げる。

「お姉ちゃん、私たち、昨日からお風呂に入ってないよ……」

「そうね……それじゃ、栞、着替えを2人分×2日分、とってきてくれる?」

「はい!すぐに行ってきますね」

「別に急がなくても良いわよ……」

栞は、自宅へ駆け足で戻る。

そして、5分も経ったであろうか。

香里は、祐一の部屋で考え事をしていた。

(……奇跡じゃなくてデッキ、どういう意味かしら……?)

(看護婦さんは、「奇跡でも起こらない限り、助かる見込みはない」って……)

(いったい、どういうことかしら……?)

考え事をしていると、部屋の外で声が聞こえる。

(……?相沢君と名雪……?)

「……もう、奇跡でも起こらない限り、お母さんは戻ってこないんだよ……」

「大丈夫だ、戻ってくる!秋子さんも、名雪が体調を崩したら、おちおち休んでられないだろ?」

「駄目だよ……『奇跡は、起こらないから奇跡っていうんです』って、昔、栞ちゃんも言ってたじゃない……」

「奇跡じゃない、デッキだ!」

「……こんな時までKanonTCGなんだ……そんな祐一、大嫌いだよ!」

「嫌いでも何でもいい!秋子さんは戻ってくるんだ、それを信じろ!」

「できないよ!……祐一、もう来ないで!」

「……ああ、わかったよ。でもな、秋子さんは帰ってくる。それだけは事実だ」

そう言って、周囲から声が消える。祐一の足音が、遠ざかる。

(KanonTCG……?奇跡と、デッキ……?)

静寂の中で、香里の思考回路が回転を始める。

(Air&Kanonのルールだと、奇跡をデッキと読み替える……)

(そうすると、『デッキは起こらないからデッキ』……?意味が分からないわ)

(待って、デッキは『起こる』ものなの?……いえ、デッキは『回る』もの)

(デッキが『回る』……設計されたデッキなら)

(設計された……?まさか、相沢君は……)

それから10分後。

香里は、名雪の部屋の前に立っていた。足下には、祐一の作った食事。

「名雪、ちょっと聞きなさい……相沢君の話だけど」

「聞きたくない……」

「いいから聞きなさい。……デッキって、なんのことか分かる?」

「……知らないよ、そんなこと」

「『設計されたもの』よ。つまり、相沢君は仮説を立てた」

「……」

「この交通事故そのものが、何者かによって仕組まれた出来事だって」

「……」

「おそらく、その首謀者は……水瀬秋子」

「……」

「自分で仕掛けた出来事ですもの、命を失うわけないわ」

「……」

「相沢君を、コントロールし続けた女よ、あの人は。その気になれば、なんだってできる」

「……でも、やっぱり、奇跡が起こらないと……」

「『奇跡』じゃなくて『デッキ』。くり返すけど、この出来事は仕組まれてるの」

「……お母さん」

「もっとも、それは無意識的なものでしょうけどね」

「……お母さん……お母さん……」

「さあ、名雪。今のうちに力を付けて、のーむさんが目覚めたら、思いっきり抱きついてあげなさい」

つづく。

あとがき

シリーズ「笑顔と共に」第2回、「星への願い」、いかがだったでしょうか?

……まさか、「奇跡→デッキ」ネタで、ここまで話が進むとは……

俺は、ずっとこのネタで話を作るのか……?それもどうかと思うので、また新しい奇跡カードが出てくるまでこのネタは封印決定!

なお、祐一は、香里のように深い考えがあって「デッキ」という言葉にとりつかれたのではなく、 単純に「奇跡」じゃない、という確証が欲しかっただけだったりします。

さらに言えば、デッキ=設計されたもの、なんていう結論を出してしまった香里も、相当疲れているのでしょう。

どうにかならないものでしょうか、この人たち。

次回は、「楽しい晩ご飯」。

「デッキ」という魔法の言葉が彼らにどのような影響を与えたのか?

本当に、「奇跡」じゃなくて「デッキ」なのか?

そして、出番のない美汐は?

それでは、次回をお楽しみに。