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elder-alliance.org  >  奇跡のかけら  >  降りかかる災い  >  倉田佐祐理編 その7

この話は、Key/VisualArts「Kanon」から取材しました。 「Kanon」のねたばれが一部あります。 以上をふまえた上で、この話をお楽しみ下さい。

第7話~きっかけ~

1999年1月12日、火曜日。

朝8時15分。

いつもの場所で、舞と挨拶をする。

そして、いつものような雑談。

「……そういえば」

「どうしたの?」

「もうすぐ……卒業」

舞の一言。

そこでわたしは気が付く。

舞と一緒にいられる時間が、たったの2ヶ月しか残されていないことを。

倉田佐祐理は東京の大学へ通い、川澄舞は地元の大学へ通う。

3年間でわたしが変わった以上に、4年間で世界は変わる。

今まで、二人きりで過ごしてきた3年間。それが、崩れる。

世界が、崩れる。

どこかで耳にしたような話。

どこかで読了したような話。

どこかで体験したような話。

どこかで輪廻したような話。

数年前、この身に降りかかった……災い。

授業中。

ふたたび来る災いを避ける方法を、探す。

舞との絆を、揺らぎもののないようにする、何か。

しかしそんなものが軽々しく見つかるはずはなく、今日の授業時間は過ぎていった。

「……佐祐理、帰ろう」

舞に声をかけられたとき、すでにクラスに人影はなかった。

そして、そんな日から数日が過ぎた、朝のホームルーム。

「今日のHRはこれで終わりだ。……あと、川澄、あとで職員室に来い。以上」

教師の言葉が、教室に響く。

また、校舎のガラスの件だろうか。

……舞と一緒にいるはずの時間が、また少し削られる。

誰が……こんな真似を?

「舞、どうだった?」

職員室の前で、舞が出てくるのを待つ。

「……謹慎2週間」

「2週間も?」

「……次やったら退学」

「舞、なんで?舞は何もしてないんでしょ?」

「……やっていたも同然だから」

「同然って……理由があるのは分かってるけど……なんで説明しないの?」

「……無駄だから」

無駄な理由……見当は付いている。『空間のゆがみ』の説明ができないのだ。 もし説明できても、舞に懐疑心を持っている集団により構成された調査委員会は、 『空間のゆがみ』による攻撃を、舞による不意打ちと断定するだろう(攻撃者が目視できないにも関わらず!)。 それでも……無駄と思ってても、少しは罪が軽くなるかも知れないと思うと、少しでも抵抗して欲しかった気はする。

……あれ?

何で、舞が学校にいると思われてるんだろう? 実際に舞が学校に行ったとしたら、誰がそれを先生に伝えたんだろう? 行ってないとしたら、誰が罪を舞になすりつけたんだろう?

何か、とんでもない作為を感じる。

明日……少し、調査してみよう。

夜。

舞は、珍しく謹慎を守っている。

そして、わたしは校舎に向かう。

目的は、『空間のゆがみ』……ではない。それを知っていて、監視している誰かである。

佐祐理と『空間のゆがみ』がぶつかり合えば、何らかの被害が出る。

そして、その被害を見て動く誰かを、追いかける。

それで十分。

犯人なんて簡単に突き止められる。

人の気配なんて、『空間のゆがみ』の気配に比べたら強すぎて簡単に分かるものだから。

……餌が来た。

しかし、いつも通り軽くいなしてしまっては目的は達成できない。

この『空間のゆがみ』を、職員室の扉に”たたきつける”。 それを見て、人があぶり出されれば捕まえればよし。 誰も捕まらないようであっても、明日には、学校が騒然としているはずである。

そして、学校側がどう動くか。それがわかれば、主犯なんてあっさりと分かる。

これが出来るかどうかは、わたしの戦闘能力次第。

……絶対に、成功させる。

職員室前に陣を張る。少し待つ。

『空間のゆがみ』が、職員室横の階段の上に認められた。

そのゆがみが、急速にこちらに迫ってくる。

それの軌道を予測し、一瞬のためを作り、テニスのバックハンドスイングの要領で、木刀を一気に振り抜く。 今までの戦いの中で、この攻撃をかわすだけの知能はないと確信しているから出来る、防御を捨てた強打。

予想通りの手応え。強い衝撃が手首と腕に伝わるが、それと引き替えに衝撃波のようなものが職員室の扉を突き破る。

大成功。あとは目の前のゆがみを断ち切る……そして、ここから走り去る誰かの気配を確認すればいいだけ。 精神をとぎすまして、周り全体の音に集中する……。

その瞬間、あたりの気配がすべて消え去った。もちろん、目の前のゆがみも消えている。

誰もいないということは……今日は収穫ゼロ決定。

帰り道、手がかりとなる何かが発見できればいいと思い、その場を後にした。

が、結局全く気配を感じることが出来ず。

そのまま家までたどり着いてしまった。

「さて、勝負は明日……ゆっくり休みましょう」

今の時間は夜の9時。

お風呂に浸かって、明日の予習と少しの受験勉強をして、ちょうど11時、就寝時間。

久しぶりに、お弁当の準備をすることなく眠りについた。少しだけ、さびしかった。

翌朝。

いつも舞と待ち合わせをしている電柱をちらっと見ると、それはまるで主人を失ったかのような、何も物を言わない灰色に見えた。 当然と言えば当然なのだが、何か物寂しい。

そのまま学校へ向かう。舞のいない物足りなさが、あたりをモノトーンの無機質にする。

この感覚はどこかで味わったような気がするが、それは考えない。

そのまま、学校へ向かう。

掲示板。

昇降口で靴を履き替えてすぐ目にする場所。

普段、テストの順位発表でもない限りは学生は誰も見ない板。

今日は、何故か、人だかりが出来ていた。

……「うそぉ、退学?」「今度は職員室の扉だってよ」「学園始まって以来の不祥事だろ」「生徒会の陰謀か何かじゃないの?」……

わたしの作った仕掛けが、ここまで反響を呼ぶとは考えていなかった。どのような形で影響が出たのか、確認が必要かもしれない。

「ちょっと見せていただいていいですか?」

佐祐理は、人混みをかき分け、人だかりの中心を形成している一枚の張り紙へと近づく。

そして、佐祐理――わたし――は、その張り紙を、見た。

川澄舞

上記の者を、退学処分とする。

平成11年1月21日学園長

つづく。

あとがき

第7章です。

こちらは栞シナリオ、舞と祐一は出会っていません。

原作に描かれた倉田佐祐理と、この作品の描く倉田佐祐理の差が、ここで生まれてきます。

もうひとつの分岐だった、「降りかかる災いif...」では普通の佐祐理さんを描くつもりです。 「降りかかる災い・祐一&香里編」と「Kanon」の佐祐理さんの違いを、とくとご覧あれ。

と言いつつ、執筆がさっぱり進まないのは、わたしの意志が緩いから……