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elder-alliance.org  >  奇跡のかけら  >  降りかかる災い  >  倉田佐祐理編 その5

この話は、Key/VisualArts「Kanon」から取材しました。 「Kanon」のねたばれが一部あります。 以上をふまえた上で、この話をお楽しみ下さい。

第2部・川澄舞 第5話~婚約者~

「佐祐理、おまえも、そろそろ許婚がいてもいいころだな」

中学一年の秋。

お父様の、一言。

むろん、佐祐理やわたしにはどうでもいいことだ。

だから、答えた。

「ええ、佐祐理には関係ないですけどね」

「自分の将来を、関係ないなどと言うな」

「佐祐理は、ただの罪人ですから」

「佐祐理!自分のことを名前で呼ぶのはやめろと言っただろう。

それに、あれは仕方がなかったんだ。いつまでも引きずるな」

お父様の語気が、急に荒くなる。

「まあいい。それよりも話を進めよう。

で、本題だが……佐祐理にはつきあっている人が全くいないとの情報があってな」

どこで、そんな情報が入手できるのだろう。

佐祐理の生活はここまで見張られているのか。……まあいい。

「そこで、こちらから一人、佐祐理に合いそうな人物を選んでみた。

久瀬直純くん。佐祐理、おまえの一つ上の先輩だ」

「……」

「直純くん、入ってきてくれ」

その声に呼ばれて入ってきた少年は……わたしが想像していた、未来の一弥の姿にそっくりだった。

「初めまして、佐祐理ちゃん。久瀬直純です」

「……」

「佐祐理ちゃん……何か、気に障ること、したかな?」

でも、そっくりなのは姿だけ。

声、物腰、性格、その他……姿を除くすべてが、一弥ではなく、一弥から見た佐祐理の理想像。

だから、わたしは、返事をしなかった。いや、することができなかった。

お父様は、なぜわたしとこのような男を引き合わせるの?

わたしが一弥を殺したから……そのあてつけ?

『気にするな』なんて、嘘としか考えられない。

そんな考えが、頭の中をぐるぐると回っていた。

「由伸さん……僕、嫌われちゃってるみたいですけど……」

反応に困った久瀬直純が、お父様に話しかける。

「話したとおり、佐祐理も大変なんだ。ゆっくりやるといい」

お父様が、久瀬直純に言葉を返す。

違う。

佐祐理が求めているのは、そんなものではなくて、倉田一弥への償い。

わたしが求めているのは、そんなものではなくて、倉田佐祐理との決別。

お父様が求めているのは、そんなものではなくて、わたしへの責任追及。

そして、久瀬直純。

あなたが求めているのは、どんなものだというの?

曲がりなりとも、久瀬家の長男なのだから、倉田家より財産は多いはず。だから、財産目当てということはないだろう。

が、そのほかに理由も思い浮かばない。すなわち、佐祐理につきまとう理由など考えられないのだ。

それから、しばらくの間。

わたしは、彼と一言も話をしなかった。

冬。

「佐祐理ちゃん、おせち料理持ってきたけど食べない?」

「……」

春。

「佐祐理ちゃん、お花見行こうよ。お弁当も作ってきたよ」

「…………」

夏。

「佐祐理ちゃん、スイカ持ってきたんだけど一緒に食べよう」

「………………」

秋。

「佐祐理ちゃん、焼き芋買ってきたんだけど一緒に食べない?」

「……………………」

そして、また冬が訪れても。

「佐祐理ちゃん、雪だるま作ろう。3メートル位する、大きいの」

「…………………………」

もう一度くり返す。

わたしは、彼と一言も話をしなかった。

彼は、来る日も来る日も、佐祐理に話しかけていた。

これは、わたしへの当てつけ?

佐祐理、おまえは本来こう振る舞うべきだったのだ。大人達のそんな声が聞こえる。

だからだろうか、一弥の顔をしたこの人を、どうしても許す気になれない。

そして、ふと。

一弥との思い出の記憶が、少しだけ薄れていることに気がついた。

この人は、一弥に対するたった一つの償いさえ、わたしから奪おうというのだろうか。

久瀬直純、彼に話しかけられるたび、そんな感情は強くなっていった。

中学3年生の春。

佐祐理は、学校に呼ばれた。

進路調査票を書いていなかったからだ。

「倉田さん……調査票の提出は、先週中だったはずですよ」

「はい……」

「どうして、提出できないんです?」

「はい……」

「倉田さん、聞いていますか?」

「はい……」

「……仕方ないですね、この場で埋めましょう」

「はい……」

「では倉田さん、どこの高校を志望しますか?」

「はい……」

少し考える。

そう言えば、家の近くに学校があったような気がする。

名前は……Kanon学園。

「……Kanon学園にします」

「そう……もうちょっと高いところを狙う気にはなれないの?」

「他に行きたいところもないですから」

「残念ね……まあ、Kanon学園くらいなら推薦を出してあげられるかもしれないわ」

「はい……」

「この調子で、この、学年でも10番以内の成績を維持してご覧なさい」

「はい……」

「今日は解散、お疲れさま」

開放された。

さて、これから何をしよう……といってもすることがない。

とりあえず、帰ろう。

それから。

今の順位をキープしただけで、簡単に推薦はとれた。

で、面接で少し演技をしただけで、あっさりと合格。

……高校には行くものの、何をすればいいのか……。

まあ、そんなこと、わたしにも佐祐理にも関係ない。

今の、一弥への罪の償いすらできない現状に、何ら変わりはないのだから。

そして、高校生になる春休み。

「佐祐理、話がある」

お父様に呼ばれる。

「お父様、どうしました?」

「そろそろ、言っておこうかと思ってな」

「何をです?わたしには話すことはありません」

「まあ、聞け。……一弥のことだ」

「!!」

「佐祐理、おまえは、一弥の死の原因はどこにあると思っている?」

「精神的ストレスでしたよね、お父様」

「そう。その原因だ」

「……何が言いたいのですか?」

「誤解を解いておこうと思ってな。

ちなみに、ここで佐祐理が『佐祐理が原因なのでしょう?』と言ったところを、

わたしが『いや、それは佐祐理の勘違いなのだ』と返す予定だったが?」

「さすがはお父様、娘のことをよく分かっていらっしゃいます」

「いや、おまえの様子を見ている人間全員の共通意見だ」

「……そうですか」

「そして、昔なら『勘違い』の理由を問いただしてくれた」

「そんなの、昔の話です……今は、何も聞きたくありません」

「そこを曲げて聞いてもらわないと困る。

佐祐理に、謝罪の言葉を聞いてもらおうと思っているのだから」

「……謝罪?」

「ああ、一弥のことは、父親と母親……わたしと真美の二人が原因だよ」

「……お父様とお母様が?」

「そうだ。佐祐理は優秀だったから、一弥には佐祐理に甘えて欲しくなかった。

そこで、佐祐理には『甘やかすな、威厳をもて』とわたしはくり返した。覚えているな?」

「はい、ずっと耳から離れずに残ってます」

「本来は、わたしと真美が一弥を『ほめる』立場にいなければならなかった。

が、佐祐理がいて安心していたのだろう。どちらも、一弥をかまってやることができなかった」

「……」

「当然、佐祐理には厳しい係を押しつけているわけだから、誰もほめてあげる人間はいない。

人間には飴と鞭が必要だ……佐祐理、おまえには何度もほめる機会があったから正しい子に育った。

しかし、一弥については飴をあげる人間は誰もいなかった。つまり、親の怠慢だ」

「それは、佐祐理が飴をあげればよかったのではないですか?」

「一人で飴と鞭をあげるような優れた教育者など、世の中にそういるものではない。

ましてや、佐祐理はプロの教育者ですらない」

「だったら、わたしがプロになるべきだったんです」

「いや、佐祐理はあれでよかったんだ。

わたしたちがフォローするべきだったし、その予定で佐祐理を『叱る』立場においたのはわたしたちなのだから」

「……」

「ほめて育てるのに成功した娘がいたのに、その前例を生かすことができずに、一弥は叱ってつぶしてしまった。正直、佐祐理と一弥にはすまなかったと思っている。」

「……だったら、わたしはそれに気がついて……」

「気づくわけはないし、気づかせないように仕向けたのは他でもないわたしだ」

「……」

「佐祐理を道化にして、一弥を殺したのはわたしなのだよ。

だからいくら恨んでもらってもかまわない。ただ、自分を責めないでくれ」

「……だったら」

ふと、お父様に対して怒りを覚える。

そして、思ってもいないのに、こんなことを口走ってしまった。

「この場で死んでください……お父様」

が、その言葉に、お父様は全く動揺しなかった。

「……言われると思っていたよ。まさか、ここまで昔と同じとは思わなかったが」

「え?」

「ああ、わたしにも弟がいた。そして、弟に窮屈な生活を強制し、死なせてしまった。

そして、しばらくしてから親の謝罪があって。

それに対してわたしは今の佐祐理と全く同じように、死をもって償うことを要求した」

「……それから?」

「お父様とお母様はその場で切腹。大変だったのはそれからだよ。何せ、名家の当主が自殺したのだから。その後も、ごたごたは続いた。何とか収めたがね。

佐祐理にその覚悟があるなら、この場で腹を切ってもいい。

……が、今のおまえにそれが耐えられるとは思えない。

わたしには、妻がいたから耐えることができた。

が、佐祐理。

おまえには、伴侶……支えとなる人間がいない。

心の支えがいっさいない人間に、家を継ぐという激務に耐えるだけの精神力は存在し得ない」

「……それは、脅しですか?」

「この選択肢を残したかったから、久瀬君を紹介したのだが。

……もしくは、佐祐理、おまえに将来を約束できる人間が存在したなら、それでも話は別だった」

「……」

「涼介と一弥が生まれ変わったときに、倉田家がなくなっていたなんて言われたくないから、わたしは今も生き恥をさらすつもりだ。

それとも……一弥の生まれ変わりの場所を、人の寿命の何倍もの間、一人で守ってくれる自信があるか、佐祐理?」

「……」

「わがままを言ってすまないが、これがわたしの覚悟だ。

この家を、永遠に……そう、わたしが死んでも永遠に発展させ続ける。

それが唯一、涼介……死んだ弟への償いだと思っているから」

「……」

わたしは言葉を失う。

倉田の家……その重さを、初めて知った。

ならば、わたしはここに誓おう。

今までのように、一弥の思い出にすがるのではなく、一弥の生まれ変わる場所である倉田家を守る。

そのための、わたしなりの方法を、これから探していくのだ。

……まあ、久瀬直純とは仲良くできそうにないが、それはいくらでも代わりが効く。

要は、わたしがわたしの力で、一歩を踏み出せばいいのだから。

つづく。

あとがき

遅れました、第5章です。

「わたし」と「佐祐理」の使い分けが難しいです。

一応、どちらも佐祐理さんの一人称というわけですが、明確に使い分けなければいけないんですよ、この話では……(特に前半)。

しかも、佐祐理さんの性格が全然違うし……いくら厨房って言っても(汗)

更に言えば最終段落長くて難しい(汗

(簡単に言えば、親父が「正直スマンカッタ。償いに、これからも家を守っていくつもりだ」と言うことを延々と説いてるわけですが……うまく表現できたでしょうか?)

まあ、愚痴はここまでにしておいて。

とりあえず、久瀬直純がKanon本編の久瀬でないことは明らかかと思います(何らかの血縁関係はあるでしょうけどね……)。

うーん、久瀬直純が生きてこない……

P.S.なお、「私立Kanon学園」はもちろんTCGネタですので。

本当の学校名は何というのだろう……(汗)