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elder-alliance.org  >  奇跡のかけら  >  降りかかる災い  >  倉田佐祐理編 その3

この話は、Key/VisualArts「Kanon」から取材しました。 「Kanon」のねたばれが一部あります。 以上をふまえた上で、この話をお楽しみ下さい。

第4話~喪失~

あの、病院侵入大作戦から、数週間が流れた。

その数週間の間、わたしはお母様に連れられて、デパートを回った。

行く先々で、お母様はわたしに聞いた。

「一弥には、どのランドセルが似合うと思う?」

そう、一弥は来年、小学生になるのだ。

そのための準備をお母様はしていたし、わたしもそれを手伝った。

一弥が、よくなることを信じ切っていた。

しかし……結局、一弥のランドセル姿を見ることは叶わなかった。

そう、3月のこと。

一弥が小学生になるその直前、わたしがお見舞いに行ったとき。

わたしの目の前で。

笑いながら。

一弥は……血を吐いた。

それも、大量の。

お医者様の、悲痛な叫び。

その叫びに呼応するかのように、看護婦さんが走り出す。

でも、それも手遅れ。

私は、分かってしまった。

一弥が血を吐く直前、淋しそうに笑ったのを。

『お姉ちゃんともう一回遊べないのは残念だけど、ようやく楽になれるよ』

何となく、一弥がそんなことを言っている気がした。

一弥のお葬式は、たくさんの人であふれかえっていた。

みんな、お父さんの知り合いの人たちばかり。

一弥のクラスメイト(?)らしき人は、誰もいなかった。

彼らは、入学準備で忙しいらしい。

一弥が、全く気にかけられていないことがはっきりした。

言ってしまえば、彼らが一弥を殺したようなものだ。

もちろん、主犯はわたし。

わたしが一弥を殺したのだ。

一弥が生まれてから今までずっと。

6年もの間。

わたしは、一弥のことを苦しめ続けた。

真綿で首を絞めるように。

じわじわと。

時間をかけて。

一弥が苦しいのは分かっていたはずなのに。

それでも、「正しい子にする」なんていう幻想を抱いて。

追いつめて。

強くないって、分かってたはずなのに。

千尋の谷から、突き落として。

そして、そのまま放置した。

そう。何度でも繰り返す、この言葉。

わたしが……一弥を殺したのだ。

わたしは、泣いていた。

倉田家の、ふかふかのベッドの上で。

そのふかふかのベッドが、涙でべとべとになって、ぺったんこになった。

それでも、涙は止まらない。

弟を殺した罪と、弟を亡くした悲しみ。

たった一つの事実がもたらすふたつの感情に、わたしは……永遠に、縛られるのだ。

途中、お父様がわたしに声をかけた。

「一弥も幸せだっただろう。佐祐理、おまえという姉に恵まれたのだからな。

よく、いつも一緒にいてやってくれたな」

「そうでしょうか……

本当に、一弥は幸せだったんでしょうか?

わたしは、佐祐理というこの姉は、本当によき姉であったのでしょうか?」

「そう自虐的になることはない。おまえの気持ちも分かるがな」

自虐的?いえ、わたしは冷静に物事を見ている。

一弥の死の原因は、社会からの逃避。

一弥にとっての社会……一弥に一番近い人間、すなわち、わたし。

お父様は、それくらい分からないの?

わたしは……そんなお父様を軽蔑する。

そう考えたとき……わたしの中で、お父様という人間すらも、分からなくなった。

あれ?

……「わたし」?

わたしは、本当に倉田佐祐理なの?

少し……検証してみる。

佐祐理は、お父様を尊敬していて、盲目的に慕っていて、お父様の一言が嬉しくて、お父様に喜ばれるように、暮らしている。

でも、わたしは違う。

お父様……佐祐理がお父様と呼んで慕っている人を、決して尊敬してない。

むしろ、何も分からないその言葉と様子を、軽蔑している。

もう少し、過去にさかのぼって検証してみる。

佐祐理は、一弥と一緒に遊ぶことを拒否していた。

わたしは、ずっと、一弥と遊びたかった。そして、一度だけ、遊ぶことができたんだ。

もう少し……いや、これ以上の検証は必要ない。

わたしは、佐祐理ではないのだ。

では、わたしは何者なのだろう?

佐祐理であって、佐祐理でないもの。

佐祐理でありながら、佐祐理を冷静に見下している存在。

……いわば、佐祐理のメタ意識。

なんだ、わたしには名前がないのだ。

仕方ない……しばらくは、倉田佐祐理を演じたままで生きよう。

そんなことを考えながら、数日間を棒に振っているうちに。

いつの間にか。

倉田佐祐理は、中学生になっていた。

わたしは、半分だけ佐祐理に入って、残り半分はわたしのままで過ごす。

それはおもしろい感覚だった。

佐祐理の中のわたしが、残りのわたしを、ぷかぷかと浮いているようにとらえる。

ぷかぷかと浮いているわたしが、佐祐理と佐祐理の中のわたしを他人としてとらえる。

そんな感覚に……しばらくの間――何ヶ月の間だろう――、酔いしれていた。

第2部へつづく。

あとがき

……佐祐理さん壊れモード発動~(マテ

一弥の死がからんでくると、一気に筆が遅くなります。

仕方ないです。このお話は、ギャグがいっさい通用しないお話なのですから。

はぁ……難しい……

佐祐理「あははーっ、たくみさん♪」

えっと……美衣さん(KanonTCGSSでの佐祐理さんのHN)、どうしました?

佐祐理「言いましたよね、フォローするって」

ああ、祐一&香里編のあれですね。

第3部で、佐祐理さん視点で祐一&香里編を書き直しますので、それまでお楽しみと言うことで。

佐祐理「本当ですね?期待して良いんですよね?」

たぶん……(汗

というわけで、第2部もよろしくお願いいたします♪