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elder-alliance.org  >  奇跡のかけら  >  降りかかる災い  >  倉田佐祐理編 その1

この話は、Key/VisualArts「Kanon」から取材しました。 「Kanon」のねたばれが一部あります。 以上をふまえた上で、この話をお楽しみ下さい。

第1部・一弥 第1話~おとうと~

おぎゃぁ、おぎゃぁ、おぎゃぁ……。

扉の向こうから、赤ちゃんの声が聞こえる。

わたしの……弟かな、妹かな。

うーん、どっちでもいいけど、可愛い子だといいなぁ。

そうしたら、赤ちゃんと、いっぱいいっぱい遊びたい。

でも……「お姉ちゃん」って、呼んでくれるかな?

……。

……。

……。

さっきから、長い時間待ってるけど、中の音は全然変わらない。

どうしたのかな。

赤ちゃんとお母さん、大丈夫かな?

すっごく、心配だよ……

扉が、開く。

中から、うちにいつも通っているお医者様がでてくる。

お医者様が、わたしに話しかける。

「佐祐理ちゃん。いつの間にそこにいたんだい?

……もしかして、産まれてくる赤ちゃんが心配だったのかな?」

緊張しながら、わたしは答える。

「はい、心配でした」

「ありがとう。佐祐理ちゃんが心配してくれたからかな、大丈夫だったよ。

おめでとう。佐祐理ちゃんに、弟ができたんだよ。」

「一つ、おたずねしていいですか?」

「あはは、佐祐理ちゃんは礼儀正しいね。

どうぞ言ってごらん」

「赤ちゃんとお母様は、元気ですか?」

「ああ、大丈夫。

でもね、赤ちゃんもお母さんも、今はとても疲れているんだ。

たぶん、あと3時間くらいは人に会えないかな。

そんなところで長い間待っていて、佐祐理ちゃんも疲れただろう?

今夜はもうおやすみ。明日になったら、元気な赤ちゃんとお母さんに会えるよ」

「本当に、会えますか?」

「ああ、本当だ」

「赤ちゃんと、遊べますか?」

「うーん、遊べるけどね。

赤ちゃんはまだ、遊び方も、遊びの楽しさも知らないんだ。

それに、体を動かせるようになったり、言葉をしゃべったりするためにはまだまだ時間がかかる。

だから、時間をかけてゆっくり、無理をしないで教えてあげなさい」

「分かりました。ありがとうございます……」

突然。

体のバランスが崩れ、意識が遠のく。

前方に倒れそうになったわたしは、お医者様に抱きかかえられる。

意識を失う前だったか、それともあとだったか。

お医者様の声が、何故かわたしの耳に残っていた。

「疲れて眠ってしまったみたいだ。よっぽど、弟君と遊びたかったんだね、佐祐理ちゃん」

目が覚める前、夢の中に私はいた。

それは、少し前、お父様のお話を聞いていた夢。

「もうすぐ、佐祐理はお姉さんだな」

「はい、お父様」

「もう、佐祐理も来年から小学生だろう?一人前の自覚を持つにはいい機会だな」

「はい、お父様」

「次生まれてくる子が男の子であれ、女の子であれ、おまえを見て育つ。

それを努々忘れないようにな」

「はい、いい姉でありますよ、わたしは」

「ああ、おまえなら大丈夫だ。わたしだって心配はしていない。ただ、念を押したかっただけだ」

「はい、がんばりますよ、わたしは」

目が覚めると、お医者様がわたしのそばで眠っていた。

「?どうしてお医者様が、わたしのそばで……?」

ぽつんとつぶやいた一言が、お医者様に聞こえたのだろうか。

お医者様が、目を覚ます。

「ふぁぁ、佐祐理ちゃん、おはよう。よく眠れたかい?」

「はい、おかげさまで」

「っと、今の時間は……やばっ、もうこんな時間か」

「どういたしました?」

「そろそろ、お母様と赤ちゃんが元気になる頃だからね、一回様子を見に行く時間なんだ。

ところで、佐祐理ちゃん。赤ちゃんと、一緒に遊んでみないかい?」

お医者様が、わたしに魅力的な提案をしてきた。

しかし。

「いえ……一緒に遊ぶのは、甘やかすことですから、佐祐理は遊べません」

そう、わたしは……お父様に誓ったのだ。

『はい、いい姉でありますよ、わたしは』

いい姉であること。

その目的は、立派にお姉さんを努めて、弟と一緒に『正しい子』になる。

そのためには、弟を甘やかさず、弟に威厳を持って接する必要がある。

甘やかさないこと、威厳を持つこと。

すなわち……絶対的に厳しいこと。

わたしは、弟に厳しく当たり続けなければならない。

例え、それが2人を苦しめるとしても。

弟が正しい子になる、その日まで。

「そう……それは残念。

今度機会があったら、めいっぱい遊んであげてください。

その方が、きっと赤ちゃんのためだから」

そう言って、お母さんと赤ちゃんのもとに戻る先生。

その表情は……なんだか分からないけど、とても怖かった。

そして、その日の夕方、お父様に聞いた話。

わたしの弟の名前は、一弥、というらしい。

わたしと一弥の生活は……少しでも、楽しいものになってくれるのだろうか?

そんな不安を抱えながら、わたしは次の日のための眠りにつく……。

つづく。

あとがき

降りかかる災い倉田佐祐理編・第1部です。

書くかどうか悩んでいたお話ですが、祐一&名雪編で悪役を演じてしまった佐祐理さんが、どうしてそうなってしまったのか。どこまでが本音で、どこまでが嘘なのか。

そのあたりを、じっくりと、じっくりと描きたいなと思って書き始めました。

祐一&香里編と違って、徹底的に佐祐理さんの一人称で、徹底的なシリアス路線でストーリーを紡いでいけたら、と思っています。

祐一&香里編は、「読みづらい」「雰囲気が安定していない」などと、結構手厳しい評価をいただいていますので……。

一応、考えているのは3部構成。

で、第3部で、祐一&香里編と時系列を一致させるつもりでいますが……果たしてうまくいくのか?

このお話が終わったら、続編を書くか、祐一&香里編を手直しするか。

どちらもやりたいのですが、どちらが先の方がいいですかね……。