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elder-alliance.org > 奇跡のかけら > 降りかかる災い > 倉田佐祐理編 if... その4
「倉田、男前だな~」
朝のホームルーム。先生のよけいな一言が、クラスの注目を買う。
「まあいい、それで、今日の予定だが」
午前中は卒業式のリハーサル(高校にもなってリハーサルとはくだらない)、午後は化学の最終実験だとか。
この最終実験の班分け表が配られると、なんとも偏った表となる。
7つの班。ほとんど実力別に割り振られたと言っていい班分けは、いったい何を意味するのか。
頭の痛い問題のほかにも、考えることはいっぱいありそうだった。
卒業式のリハーサルでは、わたしは男子のほうに並ぶことになった。
舞や緒方さんは不満な顔を浮かべていたが、この体なのだから仕方がない。
明日の卒業式本番で、どちらに並ぶべきかは定まっていない。戻れたら女子側、戻れなかったら男子側というだけの話だ。
不確定性を抱えたリハーサルに意味があるのかどうかは考えないでおくとして、誰もこの体を騒ぎ立てないのは非常に助かる。
本番の半分以下の時間で終わるリハーサルが滞りなく終了すると、教室に戻って最終実験の準備である。
班分けをもう一度確認する。構成メンバーは、わたしと緒方さん、舞と男子1名。
3班の構成メンバーは、やはり化学の成績で優秀な順番に定められていた。
化学実験の手順をそれぞれがチェックする。
ほかの班の実験内容は知らされない。
わたしたちの実験は、試験管に用意された過マンガン酸カリウム水溶液に、硫酸鉄(II)を溶かすという実験。
鉄イオン(II)が酸化され、鉄イオン(III)の黄色が発生すれば実験は終了。実験結果の溶液を、先生の机の所定の位置に運べばいいことになっている。
そして、卒業式前日のホームルーム(終了式当日なみの書類の量だった……)を終わると、昼食の時間へ。
そして、午後の最終実験。
実験をきっちりこなせば、どの実験も30分くらいで終わるらしいが、実験の予習時間をとるために長い昼休みを挟んだようだ。
その言葉を信じて、化学の実験室へと向かった。
実験室には何の準備もなく、ただ、教卓にはラベルを貼られた試験管立てがあって、化学の先生がそこに立っていた。
「ま、ひとつつきあってくれ」
試薬と実験器具の準備から始まった実験は、どの班もスムーズに進んだ。
そして、6つの班が実験を終え、最後にわたしたちが実験を終える(なぜかほかの班のサポートもさせられていたため)。
男子生徒が持っていった黄色の試薬がセットされると、先生が試薬の後ろに立ち、話を始めた。
「毎年、同じことを話しているのだが、やっぱりこの瞬間が一番緊張する」
先生の話が始まった。
「大学に行く人あり、専門学校へ進む人あり、就職する人あり、家業を継ぐ人あり。 みんな、それぞれに進路があると思う。
ただ、一つだけ覚えていてもらいたいことがある」
そういうと、先生は試薬を指さし、
「みんなで協力すれば、こんな虹色ですらすぐに作れる、ってことだ」
と、試薬のひとつひとつの説明を始めた。
フェノールフタレインの赤。
臭素の橙。
鉄イオンの黄色。
塩素の緑。
銅イオンの青。
ヨウ素の藍色と紫。
6つの物質と7つの実験結果が生み出した虹色は、みんなで協力した結果であり、それぞれの個性を生かした証明だ。
先生はそう言うと、黒板にかかっていたカーテンをはずす。
そこには、「虹色の個性よ、未来に向けて変化せよ」と書いてあった。
「化学変化という、物質特有の個性を集めて、うまく生かせばなんだってできる。温度やら触媒やらの条件はあるけどな」
この一言に、わたしは何か引っかかりを覚えた。
温度、触媒……?
まさか。
わたしは一つの可能性に気がつき、そのアイディアをメモする。
「これは、物質の化学変化に限った話じゃない。おまえらが将来成し遂げられることだって、同じことがいえるんだ。
みんなが力を合わせて、個性を生かして幸せになることを祈ってる。卒業おめでとう」
先生の話の続きなんて、わたしの耳には届いていなかった。
番外編・第4話です。
今回もちょっと短めに。
ふつう、先生のありがたい話なんて半分も聞いちゃいないわけですが、残りの半分にヒントがあったようです。
次回、性転換の原因が解明される!
とあおっておいて終わりましょうか(笑)
佐野博敏、花房昭静「総合図説化学」(第一学習社,1995)