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elder-alliance.org  >  奇跡のかけら  >  降りかかる災い  >  倉田佐祐理編 if... その3

この話は、Key/VisualArts「Kanon」から取材しました。 「Kanon」のねたばれが一部あります。 以上をふまえた上で、この話をお楽しみ下さい。

第3話~邪魔な常識論~

「っつーわけで、祐一さんもやっぱり化学系な」

お母様の出した結論が、秋子さんの表情を暗くする。

「佐祐理、祐一さん、食事にしましょう」

お母様は、秋子さんを無視して食事の準備を始めようと台所へ向かう。

「伸兄さんっ!」

「腹が減っては戦はできぬってね」

「……では、お願いします」

お母様は、水瀬家の台所を我がもののように使いこなし、すぐに簡単な昼食ができあがった。

「秋子、昼食と夕食の材料崩したから、困るようならあとで補完しといて」

「……」

お母様のその言葉も、秋子さんには聞こえていないようだった。

それから1時間もしない頃だろうか。

「ただいま~」

水瀬さんが戻ってきたようだ。

「お邪魔します」

「……お邪魔します」

美坂さんと舞も一緒のようだ。

「相沢君、本当に女の子なのね」

「うん、祐一、すごく可愛いんだよ~」

水瀬さんと美坂さんが祐一さんを困らせる一方、

「……佐祐理、格好いい……」

舞の視線に、わたしも困っていた。

「あらあら」

秋子さんも立ち直ったようで、困っている私たちを微笑むように見つめている。

「……」

しかし、お母様はいまだ、秋子さんの「あのジャム」を目の前にして、何かを考えている様子だ。

なにやらつぶやいているが、それは呪文だった。確信は得ているが確証はない、だから対策がとれないという風だった。

「ところで、北川さんはこれありました?」

「いえ、名雪に初めて聞きました」

美坂さんが答える。ということは、6人中、わたしと祐一さんだけが性転換してしまったらしい。

「……佐祐理、明日から学校」

舞が学校に出ろと言う。

「佐祐理、出席ぎりぎりだから」

確かに。

しかし、この状況をどう説明すればいいのだ。

「秋子、よろしく~」

いつのまにか机にへばっているお母様が、秋子さんに言う。

その言葉を受けて、秋子さんが学校へと電話をかける。 簡単な言づてだけで、OKが出たようだ。

「おつ~」

お母様が、普段のお母様ではない。 久方ぶりの男の子を堪能しているのか、ただ疲れているだけなのか。

「両方~」

わたしの考えは見抜かれていた。

ちなみに、お母様の名誉のために付け足すと、倉田の魔法は、使うととんでもなく疲れるのだ。 わたし、祐一さん、ジャムそのものと、1日に3回も魔法を使うなんて、無理しすぎもいいところである。

「で、伸さん、結論は?」

秋子さんの問いに、お母様はいきなり真剣になって答える。

「うん、ジャムそのものじゃないと思う」

分子の長さが足りない、とお母様は付け足した。 チラシの裏に膨大な分子式を描き、こと細かに説明する。 どうやら、ちょうど2倍くらいの長さの高分子があれば、性転換現象は引き起こせるらしい。

「もうひとつ化学反応があれば、ジャムでいけるんだけど……」

分子式を眺めながら、真剣な表情で、お母様がつぶやく。

「でも、真美バカだからわからな~い」

あ、あきらめた。

「秋子さん、真美さん、どうにかならないんですか?」

祐一さんが真剣な表情で問いかけるが、ふたりの反応は芳しくない。

あと一歩、と言ったところなのだが、そこから先のブレイクスルーが難しい。

「なんでこうなるんだよ……」

祐一さんが天を仰ぐ。 わたしとて気持ちは同じだが、嘆いたところで問題は解決しない。

「解決するまでは、このまま通学するしかないようですね」

わたしの言葉に、祐一さんを除く全員が頷いた。

夜。

秋子さんの食事をごちそうになって、わたしはひとりで帰途につく。

「佐祐理~、由伸さんのことよろしく~」

お母様の体調が優れないので、そのまま秋子さんに預けてきたのだ。

家に帰ると、お父様がいた。

「佐祐理……何があった?」

今朝からのことをかいつまんで説明すると、お父様は頭を抱えて、お母様に頼るしかない、とつぶやいた。

明日は、お父様に着付けを教わるつもりだと付け足すと、お父様は何も言わずに首を縦に振った。

そして、翌日。

お父様の指導の元、祐一さんの制服に袖を通したわたしは学校へ向かった。

そして、学校では。

「倉田さん……格好いいですわ……」

とつぶやく緒方さん一派と、

「総さまのほうが格好いいに決まってるわ!」

と無意味に突っかかってくる進藤さんのグループ。

そして。

鼻血で机を紅に染めながら、無言で親指を立てる舞の姿があった。

みんな、どうしてこんなに簡単になじめるのだろう。

わたしは、その瞬間倉田佐祐理の持つ狭い常識論の無意味さを知った。

つづく。

あとがき

番外編・第3話です。

今回はちょっと短めに。

うちの話だと、性転換がらみで誰も騒がないなぁと思いながら(笑)。

緒方さん・進藤さん(佐祐理編9話):佐祐理さんのクラスメイト。