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elder-alliance.org  >  奇跡のかけら  >  降りかかる災い  >  倉田佐祐理編 if... その2

この話は、Key/VisualArts「Kanon」から取材しました。 「Kanon」のねたばれが一部あります。 以上をふまえた上で、この話をお楽しみ下さい。

第2話~造反する常識~

さわやかな太陽の光を浴びて、少しずつ目が覚める。

眠気を吹き飛ばし、背伸びをしようと、上半身を起こそうとする。

「痛っ」

腰痛を持っていたわけではないのに、腰に痛みが走る。

仕方がないので、ベッドに寝転がったまま、うんと背伸びをする。

「……体のバランスが、違う……?」

目覚めたわたしが最初に感じたのは、この違和感。

何もないはずなのに、筋肉痛もないのに、上半身が異様に重く感じた。

「佐祐理お嬢様!」

入り口のドアを開けたますみさんが、大声を上げる。

「……お嬢様のベッドに入り込むとは、何者かっ!」

「ますみさん、何がどうなっているの?」

「問答無用、成敗するっ!」

「ちょ、ちょっとっ!」

自分の声を聞いて気が付いた。

地声が、半オクターブほど下がっている。

「それよりますみさん、鏡みせてっ!」

混乱しているのが、自分でも分かる。

攻撃の手を止めたますみさんは、なおも警戒したまま、わたしを見続ける。

そして、数歩動いて鏡の前に立ち、それをのぞき込む。

鏡の向こう側にいたのは。

佐祐理の髪型をした、一弥だった。

「ますみさん……どうしよう」

わたしのつぶやきなんか、相手にしないのは分かっていてもつぶやかざるを得ない。

「こんなので学校に行ったら、ただの変態男子学生……」

気力が、どんどん失われていく。

舞にも会えない、祐一さんにも顔合わせできない、クラスのみんなにも隠れていたい。

ふと、涙腺がゆるむ。すると、涙が止めどなくあふれてきた。

「とりあえず、佐祐理お嬢様なんですね?」

ますみさんの言葉に、首を縦に振る。

「わかりました、とりあえずご主人様と奥様に相談してきます」

ますみさんが退出して、扉が閉まる。

今は、ますみさん以外の誰にも会いたくなかった。

「入るわよ」

お母様の声。

何も返事をしないでいると、勝手に扉が開く。

「聞いてはいたけれど、見事に一弥ね……佐祐理、大丈夫?」

そんなわけないでしょうに。

「軽口たたけるなら大丈夫ね、とりあえず落ち着いて」

そういって、お母様が渡してくれたのは温かい紅茶。

ひとすすりすると、オレンジペコの柑橘系の香りが、とても心地よい。

カップの紅茶が空になる頃には、精神状態もすっかり落ち着いていた。

「落ち着いたところで、原因を調べるから、魔法に集中してちょうだい」

そういうと、お母様は呪文を唱え始めた。

倉田の最高奥義、全てを司る魔法。

「佐祐理、集中して!」

言われたとおりに、呪文に耳を傾ける。

数分間、呪文を聞き続けると、呪文の詠唱が終了した。

「佐祐理……何か変なものでも食べた?」

お母様の、呆れ声が返ってきた。

「というわけなんです」

わたしは、昨日口にしたものを、すべて列挙する。

すると、お母様は愕然とした様子で、

「秋子か……」

とつぶやいた。

「佐祐理、そのときに一緒に食事していたメンバーは覚えているかしら?」

お母様の言葉に、わたしは頷いて、名前を列挙する。

舞、祐一さん、水瀬さん、美坂さん、あと一人……誰だっけ?

「6人中5人も分かれば上等よ。あとは当事者に聞いて回れば出てくるでしょう」

お母様は、電話をするといって部屋を後にする。

わたしも、付いていくことにした。

「はい、水瀬です」

「私倉田と申しますが、お母様はご在宅でしょうか」

「倉田……何さんですか?」

「倉田真美と、フルネームをお伝えいただければ分かっていただけると思います」

「少々お待ちください」

お母様の電話を、横から聞いている。

最近流行しだした携帯電話というのは、使える代物なのだろうか。

そんなことを考えているうちに、電話口の相手が代わる。

「伸兄さん、今忙しいのだけれど」

「こっちも緊急だ、たぶん同じ件で」

……お母様の口調が、荒い。しかも、『伸兄さん』って?

「何?」

「娘が性転換した。責任とって治せ」

「えっ!?」

「娘をそっちにやるけど、俺も行った方がいいか?」

「……お願い」

「おっけ、すぐ準備する」

そして、お母様は受話器を置く。

「佐祐理、お父様の服を借りてきて。出かけるわよ」

お母様のその言葉に、わたしは頷くことしかできなかった。

準備と移動で1時間ほどかかった後、私たちは水瀬の家の門を叩いた。

出迎えてくれたのは、見たことのない女性。祐一さんと水瀬さんのまんなかをとったくらいの容姿か。

「こんにちは、お邪魔いたします」

「佐祐理さん、遠慮しない。俺たちの仲じゃないか」

この軽口。なるほど、彼女は祐一さんだったようだ。

「祐一さん、母です」

「先ほどお電話差し上げた、倉田真美と申します」

「これはご丁寧に、居候の相沢祐一です。今はこんな格好と声してますが、本当は男です」

軽い紹介をした後、祐一さんの誘導で、居間に通される。

「秋子さん、倉田真美さんと佐祐理さんです」

「はい、ようこそおいでくださいました、秋子と呼んでください」

祐一さんの言葉に応えて現れたその女性は、『専業主婦のお姉さん』こと、水瀬秋子さん。

彼女の潜在能力は、倉田の魔法を凌駕するという噂もあるほど。

「伸兄さん、早速だけれど、倉田の魔法で何かした?」

「佐祐理に関しては、誰も何もしてないはず。少なくともその形跡はなかった」

「祐一さんが覚えている限り、祐一さんの食事におかしいところはありませんでした」

「佐祐理については、予測できる原因は化学系な」

お母様と秋子さんの間に流れる空気が冷たい。

責任のなすりつけ合いといったところか。

「祐一さんについても調べてもらっていいかしら」

「喜んで。佐祐理は任せた」

「もちろん」

お母様と祐一さんが、居間を出て別の部屋へと向かう。

「では、佐祐理さん、早速調査にご協力いただいてよろしいかしら?」

秋子さんの言葉に、わたしは黙って頷く。

そこで聞かれた内容は、食材の調理方法。とは言っても、ふつうに調理していただけなので、そのまま答える。

その内容をすべてメモし、さらに秋子さんは、お母様と同じように、一緒に食事をしたメンバーについて聞く。 わたしは、先ほどお母様に伝えた内容を繰り返すのみ。

「名雪と香里ちゃんには何もないことは分かっているのよね」

問題は、舞ともうひとり。

ジャムを食して、性別に変化がないかどうかが問題である。

「佐祐理さん、倉田の力で、川澄舞さんと連絡とれませんか?」

それはやったことがなかった。

秋子さんの言葉に従い、わたしは倉田の魔法を唱え始める。

倉田以外の人間との遠隔通信[テレパス]なんて初めてだから、ちょっと緊張する。 ただ、脳へ直接通信を打つため、低くなったこの声を聞かれないで済むのは、かなり助かる要素だ。

《舞、おはよう~》

《……佐祐理?》

《うん、今日は学校行けなくてごめんね》

《……なんで?》

《祐一さんが休んでいる理由と一緒。詳しくは水瀬さんに聞いてみて》

《……わかった。また明日》

《うーん、いつ出られるか分からないから、そのときはまた連絡するね》

《……明日》

《わかった……けど、学校に行けないかもしれないから、そのときはうちに来てね》

《……楽しみにしてる》

通信をそこで切断する。この時点で、すでにへとへとである。

「お疲れのところすみませんが、結論は?」

「舞は、何も知らないようでした。水瀬さん……娘さんに、話を振っておきました」

「ありがとうございます」

「それで、何が原因なのでしょう?」

「し……お母様は、私のジャムが問題だと決めつけているようですが」

ジャム……ということは、あのジャムの作り手は、男性ではなかったことが確定した。

お母様は百合趣味? などと思っていると、

「佐祐理さんは、ご両親について、あまり詳しいことを知らないのね」

と、秋子さんが指摘した。 まさにその通り、両親のなれそめのあたりは、倉田の家でもタブー視されている情報だ。

「簡単に言うとね、お母様と私は、いとこ同士なんです」

それは何となく分かる。でも。

「それで、彼女は18歳のときまで、男の子だったんですよ」

……はい?

「男の子だったんです」

あの、うちの母は、性転換で有名なモロッコにでも行ったのでしょうか?

「いいえ、倉田の魔法は、そのくらい簡単にやってのけるっていうことです」

発言しようとしたことのことごとくを読まれている。では、質問を変えて。

「つまり、秋子さんは私を疑っていらっしゃる?」

「はい、そのとおりでした」

あっさりと言ってのける。

「でも、過去形です……知らないとできないことですからね」

疑いは、すでに晴れていたらしい。

「というわけで、もう八方手詰まりなんです」

あっさりと敗北宣言。 その声には、若干の疲れが見える。

「では、上のふたりを呼んできましょうか」

「お願いできますか?」

疲れているであろう秋子さんを残して、わたしは2階へと足を運んだ。 それほど広い家ではないので、迷うこともなかった。

廊下に出たわたしは、耳をとぎすます。

呪文か雑談、どちらにしても声は聞こえてくるはずだから。

「私の場合は、覚悟してたから」

「へぇ」

「夫……と言っても、当時は女の子だったけれど、すごく可愛かったわ」

「いいですね」

ビンゴ。

部屋を特定し、ドアノブに手をかける。

「ちょうど、今のあなたみたいに♪」

「わわっ……な、何を」

ドアをノックしようとしたが、考えが変わった。

乱暴にドアを開け放つと、祐一さんに背後から抱きついているお母様の姿があった。

「やらないか」

わたしは、一言ことばを投げ捨て、開けたときよりも乱暴にドアを閉じた。

つづく。

あとがき

番外編・第2話です。

お母様大活躍。

佐祐理さんと秋子さんの絡みはめずらしいなと思いつつ、お母様の秘密もばらされると。

そして、百合百合してるお母様と祐一さん、あんたら元々男の子でしょうが、ってけーねさゆりんが言ってた。

参考文献

山川純一「くそみそテクニック」, http://gaty.hp.infoseek.co.jp/kusomiso.html (エロ注意、18歳未満クリック禁止)